AIに任せてはいけない場面——線引きを先に決めておく
ここまでの記事では、AIを学習の加速装置として、どう使うかを見てきました。この記事は逆に、AIに何を任せてはいけないかを決めます。
先に言っておくと、「AIは危ないから控えめに」という話ではありません。任せてよい領域と任せてはいけない領域の線を先に決めておけば、迷いなく使い倒せる、という話です。線引きは四つあります。
1. 思い出す練習だけは、AIに渡さない
第Ⅳ部で繰り返してきた通り、記憶は思い出すときに強くなります(復習の記事)。だから、思い出す工程そのものをAIに渡してはいけません。
具体的には、暗記の代わりに「まとめ」を作らせて眺めて終わること、解き直す代わりにAIに解かせた答えを読んで済ませること、覚えているか確認する前に答えを表示すること。どれも「やった感」は残りますが、思い出す作業が起きていないので力になりません。AIには、問題を出させる側、つまりテスト役をさせてください。
〔範囲〕を覚えられたか確認したい。一問ずつ出して。答えは私が答えるまで言わないでください。
同じAIでも、使い方が違えば、効果は正反対になります。
2. 本番形式の演習——時間を計り、自力で解ききる
過去問や模試形式の演習は、試験当日の記事で見た通り「本番の再現練習」です。この演習中にAIを使うと、制限時間に追われながら自力で最後まで解ききる、という本番そのものの練習になりません。
演習中は使わない。終わって自己採点まで済ませてから、検討の相棒として使う。この順序だけ守ってください。演習後のAIは優秀で、「自分の答案と模範解答のズレ」「時間配分の改善案」を一緒に考えるのには大いに役立ちます。
自己採点まで終わった答案です。模範解答とのズレと、時間配分の改善点を一緒に洗い出してください。
3. 事実の最終確認——AIは間違える
AIは、もっともらしい間違いを自信ありげに言うことがあります。日々の学習なら、間違いに気づくこと自体が学習になるので、大きな問題にはなりません(だからこそ、鵜呑みにせず教科書で確かめる習慣が大事です)。
ただし、間違えると取り返しがつかない情報があります。入試の日程、出願要件、配点、試験範囲といった入試情報です。これらは必ず、大学の公式サイトと募集要項で確認してください。AIの回答は、古かったり、別の大学の情報と混ざっていたりすることがあります。AIは調べはじめの入り口に使い、最後は必ず公式の情報に当たる。この順番だけは崩さないでください。
4. 心の不調が深刻なとき——AIで済ませず、人に頼る
勉強の愚痴を聞いてもらう、不安を言葉にして整理する。そうした使い方は構いません。書き出すことで頭が整理される効果(筆記開示)は、相手がAIでも働きます。
ただし、ここははっきり線を引いておきます。セルフチェックの記事では、危険サインを挙げました。眠れない日が続く、食欲が大きく変わった、何にも意欲が湧かない状態が2週間以上続く、「消えてしまいたい」と考えてしまう。こうしたサインが出ているときは、AIとの対話で済ませないでください。必ず、家族や学校の先生、スクールカウンセラー、医療機関といった人に相談してください。AIは話を聞けますが、あなたの様子を見て、手を差し伸べることはできません。つらいときに頼る先は、人です。
まとめ
任せてよいのは、調べ物の下調べ、要約、計画の叩き台、添削、壁打ち。任せてはいけないのは、思い出す練習、本番形式の演習、入試情報の最終確認、そして、心の不調が深刻なときにAIで済ませることです。
仕上げに、この四つの線引きを紙に書いて、勉強机の見えるところに貼っておいてください。迷ったらそれを見れば、AIに手を出してよい場面か、自分でやる場面かが、その場で分かります。
この線を最初に決めておけば、AIは恐れる対象でも、依存する対象でもなくなります。ただの優秀な道具です。道具に使われず、道具として使う。第Ⅳ部で伝えたかったのは、このことです。