暗記は才能ではなく加工の技術——脳が覚えやすい形に変換する方法
「英単語を10回書いても覚えられない」 「歴史の年号が頭に入ってこない」
暗記への苦手意識を持つ受験生は非常に多いのですが、記憶力は生まれつきの才能だけで決まるものではありません。覚えられないのは、多くの場合、覚えにくい形のまま飲み込もうとしているからです。
脳は、無機質な記号や文字列を覚えるのが苦手です。一方で、ストーリーや映像、感情の伴った情報は強く記憶します。だとすれば、やるべきことは「根性で繰り返す」ことではなく、情報を脳が好む形に加工してから覚えることです。この記事では、その加工の技術を順に紹介します。
なお、「いつ復習するか」というタイミングの問題は復習の記事で扱いました。この記事は「どう覚えるか」という加工の側を扱います。
1. 記憶には種類がある
まず、記憶は一種類ではないことを知っておくと、科目ごとの戦い方が見えてきます。
言葉の意味や知識そのものの記憶(意味記憶)は、教科書の内容の大半を占めますが、単体では忘れやすいのが特徴です。一方、「いつ、どこで、何があった」という体験の記憶(エピソード記憶)は、努力しなくても残ります。「先生があのとき変な冗談を言っていた」ことを覚えているのはこのためです。暗記の技術とは、要するに忘れやすい意味記憶を、残りやすいエピソード記憶の形に変換する工夫のことです。
もう一つ、自転車の乗り方のように体で覚える記憶(手続き記憶)があります。数学の計算や英文法の運用はここに属するので、読んで理解するだけでなく、繰り返し手を動かして体に落とすことが必要になります。
2. 加工の基本——関連づける・映像にする・感情を動かす
脳に残る形への加工は、三つの操作に整理できます。
一つ目は、すでに知っていることと関連づけることです。たとえば英単語の submarine を文字列として暗記するのではなく、sub(下に)+ marine(海の)=「潜水艦」と分解して理解する。新しい知識が既存の知識の網につながると、芋づる式に思い出せるようになります。
二つ目は、映像にすることです。脳は文字より画像を圧倒的に速く、強く処理します。歴史の出来事なら、その場面の風景や人物の服装まで具体的にイメージする。化学反応なら、原子が動き回るアニメーションとして想像する。「絵にできるか」を覚える際の合言葉にしてください。
三つ目は、感情を動かすことです。驚き、面白さ、悔しさといった感情が伴うと、記憶は強くなります。馬鹿馬鹿しい語呂合わせを作って笑う、「へぇ、そうだったのか」と意識的に面白がる。くだらないと思うかもしれませんが、くだらないほど残るのが脳の性質です。
3. 具体的なテクニック
この三つの操作を形にした、定番のテクニックを挙げます。
語呂合わせとストーリー化は、意味のない数字や羅列に意味と物語を与える方法です。出来合いのものを使うより、自分で作る方が記憶に残りやすくなります。作る過程そのものが加工だからです。
場所法(記憶の宮殿)は、大量の情報を順序付きで覚えるのに向いた古典的な方法です。自分の家や通学路など熟知した場所に、覚えたい項目を順番に配置してイメージします。玄関に徳川家康が立っている、廊下に鎖国令が落ちている——荒唐無稽なほどよく残ります。
チャンク化は、バラバラの情報をまとまりにして覚える方法です。電話番号をハイフンで区切ると覚えやすいように、英単語も関連するグループでまとめて覚えると負担が減ります。
マインドマップなどの図解は、情報を一覧のリストではなく「つながり」として整理する方法です。全体像が一枚の絵として頭に入るので、抜けている場所にも気づきやすくなります。
4. 道具の使い分け
隙間時間の単純な反復には、暗記アプリ(AnkiやQuizletなど)が便利です。間違えたものだけを繰り返し出題してくれるので、紙のカードより管理が楽です。
一方、複雑な概念の理解や記述対策には手書きが有効です。このとき、ノートを綺麗に仕上げることに時間を使わないでください。残すべきは清書ではなく、矢印や図を使った思考の過程です。書く目的は「あとで見るため」より「いま頭を整理するため」にあります。
覚えたかどうかの確認は、必ず「見ないで思い出せるか」のテスト形式で行ってください。これはアウトプットの記事で扱った原則と同じです。
まとめ
「覚えられない」と嘆く前に、「覚えやすい形に加工したか」と自問してください。知っている知識と関連づける。文字を映像に変換する。語呂合わせや場所法を恥ずかしがらずに使う。この三つを意識するだけで、暗記は作業から知的なゲームに変わります。
暗記の考え方をもっと実践的な場面で知りたい人は、ブログの暗記が苦手な人は「覚えようとしすぎている」と英単語暗記法(入門編)も合わせて読んでください。